通院の電車の中と待ち時間で読み終わりました。
いや~、これはびっくり。
非常に良い小説です。
日常に入り込む不思議 §
日常に入り込んでくる不思議な出来事の話ですが、それらの不思議には明確な説明が一切付きません。これは非常に秀逸です。
結局、ツクツクさんの正体は一切不明のままだし、家にいるメイドは鏡の中で見ることしかできず、きちんと会うことはできません。ヘイゼルナッツさんも、正体は不明だし、会話方法も分からないままです。
しかも、タイトルになった「お隣の魔法使い」とは、ツクツクさんのことではなく、何の変哲もない主人公の少女のことであることが最後に明らかにされます。
二重の非日常性により安定する構造 §
舞台は欧米風の土地であり、登場人物も日本人ではありません。
アップルパイの描写などは、その土地では当たり前のことでしょうが、日本人から見れば嫌みに感じられる要素もなきにしもあらず。
これは日本人から見た一種の非日常性です。
ところが、この上にもう一層の別の非日常性のレイヤーが被さることで、その嫌みな感じが中和されてしまっているのです。
これは上手い構成ですね。
描写の見事さ §
たとえば、以下のような文章は絶品です。
つやつやしたアプリコットソースの輝きは、中に入ったリンゴのしっとりとした感じを滲ませている。
文章表現力についても、とても感銘を受けました。
ヘイゼルナッツさん! §
ヘイゼルナッツさんは非常に印象が残りますね。
主人公も非常に印象的で好きですが、それ以上にヘイゼルナッツさんです。
正体は分からないし喋りませんが、圧倒的な存在感があります。物語を最後まで読みつつ、ヘイゼルナッツさんが出てこなくても世界のどこかでヘイゼルナッツさんは旅をしていることが実感できます。
凄いよ、ヘイゼルナッツさん。
こういう小説に出会える幸福 §
こういう小説に出会えるのは本当に幸せだと思います。